アーカイブ : 2010年 8月 14日

為替ヘッジ

為替ヘッジ,かわせへっじ,foreign exchange hedge

 「外貨建て資産」に投資した場合、外貨で支払われる利息、分配金、投資元本などを円に替えるときには、外国為替の変動による影響を受けます。例えば、外貨建て資産を売却して、外貨を円に替える際に、円が投資時点よりも高く(円高に)なっていれば、円ベースの手取額が減少し、為替差損が生じます。反対に、円が投資時点よりも安く(円安に)なっていれば、円ベースの手取額が増加し、為替差益が生じることになります。表示通貨が円の投資信託についても、投資対象が海外の有価証券の場合には、同様に為替の変動の影響を受けます。
 このような為替変動のリスクを回避するために、将来のある時点で保有外貨建て資産と同額の外貨を売って円を買う取引の契約を結ぶことがあります。これを為替ヘッジといいます。ヘッジ取引により、原則として為替変動のリスクを回避することができます。ただし、価格変動のある金融商品の場合、外貨ベースの価値が変動するため、保有外貨資産の全額をヘッジすることができるとは限りません。また、為替ヘッジは金利差分のコストがかかります。

為替レート

為替レート,かわせれーと,カワセレート

 為替レートとは、2国間の通貨の交換比率のことです。
 たとえば、1ドル=120円のような表示のしかたを邦貨(円)建ての為替レートといいます。為替レートは、基本的に、外国為替に対する需要と供給の関係により決まります。たとえば、対ドルの円の為替レートは、円とドルの交換比率になることから、ドルの需要・円の供給(円を売ってドルを買う行為)と、円の需要・ドルの供給(ドルを売って円を買う行為)との強弱によって決定されます。ドルの需要が発生するのは、日本が米国(通貨が米ドル建ての国)などから原材料や製品を輸入する場合や、米国の債券や株式を購入するときなどで、円の需要が発生するのは、米国が日本から製品を輸入する場合や、日本の債券や株式を購入するときなどです。つまり、通貨の需要を決めるものには、経常取引から生じるものと、資本取引から生じるものの2つがあり、その相対的な関係から為替レートは決定されます。
 資本取引の需要と供給の関係は、内外の金利差の影響を強く受けます。日本より米国の金利が高ければ、日本の投資家は米国の債券などを購入しようとするため、円売り・ドル買いの圧力が強まり、円安・ドル高の要因となります。近年、グローバルな投資が増えており、為替レートは、このような金利差に着目した資本移動の影響を強く受けるようになってきています。
 長期的には、為替レートは各国経済の実態を反映し、経済成長率、失業率、物価等、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の良い国の為替レートは一般的に高くなります。なお、為替相場の変動を説明するものとして、「購買力平価説」「フロー・アプローチ」「アセット・アプローチ」などがあります。

購買力平価説

購買力平価説,こうばいりょくへいかせつ,コウバイリョクヘイカセツ

 為替相場決定の古典的学説としては「国際貸借説」「為替心理説」「購買力平価説」の3学説が著名ですが、今なお生命を保っているのがカッセル(Gustav Cassel 1866~1945年)が唱えた「購買力平価説(theory of purchasing power parity)」です。
 購買力平価とは、一国の通貨と他国の通貨との交換比率の一種で、それぞれの通貨の購買力(買える財やサービスの量)が等しくなるように計算して求められます。たとえば、ある商品Aが日本で300円、米国で2ドルとすると、商品Aでみた円とドルの購買力平価は1ドル=150円(300円÷2ドル)となります。
 つまり、購買力とは、物価の裏返しで、物価が上昇すれば通貨の価値すなわち購買力は低下し、その通貨の価値は下がります。そして、一般にその通貨は安くなります。当然のことながら、このような考えは、さまざまな商品の価格の平均である物価水準についても成り立ちます。
 現実の世界では、物価水準という概念の代わりに物価指数を用います。物価指数とは、基準年を決め、各年の物価が基準年の物価に比べて、どのような比率になっているかを指数で示したものです。購買力平価は「基準時為替レート」に「基準時を100とするわが国の物価指数を、基準時を100とする当該国の物価指数で除した値」を乗じた値になります。
 購買力平価は、基準時点の取り方や物価指数の種類によって異なるため、基準時点の取り方や物価指数の選択が重要になります。基準時点は、国際収支が均衡している時点をとることが多く、わが国では、基準時点として経常収支が赤字から黒字に転換し、変動相場制に移行した1973年を基準年とするのが一般的です。
 なお、世界銀行を中心に2005年をベンチマークにした2005年ICP(国際比較プログラム)が完成しており、そこでは140か国以上の国々のGDP(国内総生産)を構成する幅広い財およびサービスを考慮に入れて2005年時点の購買力平価を推計しています。

固定為替相場制

固定為替相場制,こていかわせそうばせい,コテイカワセソウバセイ

 自国通貨と他国通貨との交換比率があらかじめ定めた一定の水準に固定されている制度のことをいいます。この場合、通常、基準レートの上下に一定範囲の帯(バンド)を作り、相場介入、マクロ経済政策、金現送などによって為替相場の変動をバンド内に納めるよう政策運営がなされます。金本位制の下での為替相場制度や、国際通貨基金(IMF)体制下での変動幅上下1%、スミソニアン合意の変動幅上下2.25%の相場制度が固定為替相場制にあたります。
 固定為替相場制では、為替リスクがありませんが、為替相場を維持するために国内経済を犠牲にせざるを得ないことがあります。たとえば景気テコ入れのために金利を引き下げたくても、資金流出による為替相場の下落が懸念されて引下げに踏み切れないといった事態です。また、大規模な為替投機(たとえば大量売り)に対して買い支えることができなくなり、基準相場(平価)切下げに追い込まれるといった弱さを持っています。アメリカ経済が弱くなり、基軸通貨のドルが売られたことで固定為替は維持できなくなり、1973年に、先進国は相次いで変動相場制に切り替えています。

対外純資産

対外純資産,たいがいじゅんしさん,タイガイジュンシサン

 対外純資産とは、国全体として、政府、企業、個人が外国で保有している資産から、外国から国内への投資(負債)を差し引いたものを指します。対外資産としては外貨準備、援助、銀行の対外融資、日本企業の対外直接投資等があります。対外負債は外国人の対日証券投資、邦銀による外貨資金の借り入れなどがあります。
 対外純資産がプラスの場合、対外純資産といいますが、マイナスの場合は対外純債務といいます。一般的にいって、国際収支の経常勘定が大幅な黒字を続ければ、対外純資産は大きくなり、逆の場合には対外純債務が大きくなります。対外純資産が大きくなれば、外国からの利子や配当の受取りが外国への利子・配当の支払いを上回るため、経常収支の黒字がさらに大きくなります。逆に、対外純債務が大きくなれば、利子・配当が支払超過となるため、さらに経常赤字が増えることになります。
 日本では、経常収支の大幅黒字が続いてきたため、対外純資産が年々増加しています。2007年末の対外資産残高は610.5兆円、対外負債残高は310.3兆円で、対外純資産は250.2兆円に上っており、17年連続で世界最高となっています。なお、同年の経常収支は24.8兆円の黒字でしたが、そのうち所得収支(その大部分が利子・配当の収支)は16.3兆円の黒字で、貿易黒字の12.3兆円を上回っています。

通貨切下げ

通貨切下げ,つうかきりさげ,ツウカキリサゲ

 通貨切下げとは、固定相場制を採用している国が、固定相場を自国通貨が弱くなるように、つまり、より少ない外貨としか交換できないように為替レートを変更することです。2つの通貨の交換比率が一定である固定相場制では、経済変動などにより一方の通貨の価値が大幅に下がると、その通貨の価値を下げるため、通貨切下げ等が行われます。通貨を切り下げると輸出品の相対価格が安くなるため、国内企業にとっては国際競争力が高まるという効果がありますが、一方で、輸入品の価格が上がるというマイナス面もあります。なお、通貨切下げは、固定相場制を採用している国が行うもので、日本や米国、英国などの変動相場制を採用している国では、市場原理により、為替レートは変動し、自動的に調整されます。

電信売相場

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 電信売相場(TTS)とは、銀行が顧客に対して外国為替を売却するときの相場のことで、銀行間決済相場(仲値)に手数料等をプラスして算定されます。たとえば米ドル相場のときは、仲値(TTM)が1ドル=120円の場合、手数料等1円を加えて1ドル=121円となります。なお、手数料は通貨によって異なります。
 TTSには金利的な要素は含まれません。仕向送金、輸入の本邦ローンやインパクトローンの期日決済、旅行用小切手の売渡し、外貨預金の預入れなどの際に適用される相場です。

電信買相場

電信買相場,でんしんばいそうば,TTB,Telegraphic Transfer Buying Rate

 電信買相場(TTB)とは、銀行が顧客から外国為替を買う場合の相場で、銀行間決済相場(仲値)から手数料等を差し引いて算定されます。たとえば、米ドル相場のときは、仲値が1ドル=120円の場合、手数料等1円を差し引いて1ドル=119円となります。なお、手数料は通貨によって異なります。
 TTBには金利的な要素は含まれません。被仕向送金の支払いや取立済手形の支払い、外貨預金の引出しなどに適用される相場です。

デュアルカレンシー債

デュアルカレンシー債,でぃあるかれんしーさい,ディアルカレンシーサイ

 デュアルカレンシー債(二重通貨建て債)とは、円貨建てと外貨建ての両面を持つ債券のことで、たとえば、払込みと利払いは円で、償還あるいは途中売却代金はドルで支払われるといった債券のことです。そのため、償還金もしくは途中売却代金は為替リスクの影響を受けることになります。なお、払込みと償還が円建てで、利金が外貨建てとなっている債券を「逆デュアル債」と呼んでいます。

プラザ合意

プラザ合意,ぷらざごうい,プラザゴウイ

 プラザ合意とは、1985年9月22日に、ニューヨークのプラザホテルで開かれた、5か国(日本、米国、英国、フランス、ドイツ)蔵相会議におけるドル高是正のための合意のことです。それまでのドル独歩高を、為替介入等を通じて政策的に修正し、貿易収支等の不均衡を為替相場の調整で是正するのが目的でした。プラザ合意の結果、円ドルレートは、プラザ合意直前の1ドル=240円の水準が、1985年12月末には1ドル=200円の水準まで修正され、1995年4月には一時、1ドル=80円を突破しました。